まきくま山

まきくま山の備忘録。 山歩き・美味しいもの・愉快な仲間


美しく老いるために
マーガレット(96歳)

マーガレットの農場に招かれたのはダラス(テキサス)について3日目、土曜の夜だった。
マーガレットは印象派のコレクター。今までに多くの作品をさまざまな美術館に寄贈してきた。アメリカの美術館業界ではちょっとした有名人らしい。彼女の亡くなった夫はテキサスの大きな電気メーカーの創業者の一人というから、わたしの想像をはるかに超えたお金持ちであることに間違いはない。

ダラスはホームタウンだから、と、私たちの案内役をかって、わざわざカリフォルニアから飛んできてくれたAさん。Aさんは美術館のキュレーターで、マーガレットとは長年の友人なのだ。遠い島国日本から、コムスメふたりが来ているというので興味をもっていただけたのか、それともただのついでだったのか、とにもかくにも私たち3人(Aさん、同僚のSちゃん、私)はマーガレットの96歳の誕生日のディナーに招待されたのだ。

ダラスのダウンタウンからAさんの車で北へ向かう。車を走らせること1時間。風景は、まったく変わらない。テキサスはどんなところ? ときかれたら、「平たい」のひとことに尽きる。山はおろか丘だってないのだ。風景に潤いがない。その代わり(かどうかは定かではないけど)、ここの夕日は凄い。どこまでもどこまでも遠く見渡せる空の向こうに、ずんずん沈む太陽。谷や山がないということは、空気によどみやひずみがない、ということなのか。そんなことを思わせるほどにここの夕焼けは、赤く、大きく、透き通って、かつ重厚だ。

こんな空、見たことない。

と、感動しつつも、乗り物に乗ったときのいつもの癖で、ひとり気楽にうとうとしているうちにマーガレットの住んでいるという広大な農場についた、、、らしい。
らしい、というのは、あまりに何もなさ過ぎて、なんだか事態がのみこめないのだ。
やがて、小さな家の前に車が止まる。(農場についたわよ、とAさんが言ってからいったいどのくらい走ったかしらん)

車のまわりを3匹の犬が取り囲んでいる。ひとしきりほえたあと、お客様だとわかったのか、じゃれ付いてくる。
ドアが開いて、若い男の子が私たちを招き入れてくれた。彼はマーガレットのいわゆる「召使い」らしい。

そこへ、銀髪の小さなおばあさんが現れた。マーガレットだ。
招かれたお礼やら、お誕生日おめでとうやら、ひととおり挨拶をすませ、暖かい暖炉の前にみなで腰掛ける。
マーガレットはひと目でシルクとわかる明るい色のイカットで仕立てたゆったりとしたワンピースを着、ちょっと古臭いけれど上等そうなパンプスを履いている。自分に似合うものを知っている人はいくつになっても美しい。ぼーっと見とれていたら、いつしか彼女の質問攻めが始まっていた。

「ねえ、テキサスはどお? どう思った?」
「人が親切って、それはどんなふうに? 日本とどこが違うの?」
「あなたたちはなぜテキサスに来ることになったの?」
「ダラスの美術館で何をみたの?」

答えるのはもっぱら英語が堪能なSちゃんの役目。

いつしか話は、日本美術愛好家として知られるアメリカ人、ジョー・プライスさんの若冲のコレクションにおよび……

「若冲ってどんな絵を描くの?」
「どこがそんなに魅力なの?」
「なぜ、あなたはそれが好きなの?」
「どうしていま人気がでているの?」

ひとつ答えると、またひとつ、マーガレットの質問はつきることがない。

「1945年、私は日本を旅したのよ」

ジャーナリストだったというマーガレットは、戦後間もない日本を訪れマッカーサーのインタビューもしたことがあるという。

「北海道に行ったわ。もちろん東京にも」
「ヒロシマにも行ったのよ」

驚きである。

「アメリカは日本に爆弾をおとしたけれどあなたたちの両親はそれをどう思っているの?」

「ジョージ・ブッシュは好き?」

ひとつひとつ率直に、流暢な英語で答えるSちゃんにも感心するが、96歳にして涸れることのない好奇心と明晰な頭脳をもつマーガレットにはただただ驚くばかりである。

ろくろく話に割り込めないでいるわたしにも、いつしか質問の矢が飛んできた。

「あなたは博物館に勤める前は何をやっていたの?」

つたない英語でわが人生を語るまきくま。

「あなたは日本に帰ったら何をするの?」

え?














日本語で言ってくれれば訳すよー、とSちゃんが助け舟をだしてくれる。いや、そうじゃなくてね。
やりたいことって、、、、なんでしょね???? この旅のあとに、私のするべきことってなに???? 
そう、ただなんとなく、ではなく、きちんと向き合うこと、問いを投げかけ、ちゃんと考えることは重要なのだ。

必死に英作文をするまきくま。

そこでなんと答えたかは秘密。

それは、ちょっと自分でも意外なことだった。それは、ここ何年か自分のなかで封印してきたことがらだったからだ。
マーガレットの直球すぎる質問が、私の潜在意識を掘り起こしたらしい。

現在、マーガレットは奨学金の運営を行っており、世界各国からの学生を援助している。大学の学費や生活費だけでなく、休暇中に参加する催しなどの費用まで面倒みるというユニークな制度なのだそうだ。

「テキサスの夕日はね、それはそれはきれいよ。わたしはいつも農場を散歩しながら眺めるの」

最後に戻るのは、テキサスの自慢。

もっともっと聞きたいことも、聞いてほしいこともあったけど、いかんせん私の英語はまずすぎる。
10分の1もかなわぬままに、いつか時間はとっくに9時を過ぎていた。
暖かい握手とやさしいハグでお別れ。外に出るとさっきの大きな犬が飛びついてきた。

私が96歳になったとき……
自分の年の半分にも満たない若造相手にどんな話をするだろう。
彼女のような優雅な暮らしは望むべくもないけれど、いくつになっても、好奇心をなくすことなくすごせたら、幸せだろうな、と思う。
緊張していたからか、妙に冴え冴とした頭で、長生きするのも悪くないなあ、としみじみ思う夜だった。

アメリカンな人びとシリーズはこちら
アメリカンな人びと1 タカシ君(仮名)26歳
アメリカンな人びと3 ニコ 36歳(推定)


じ~ん

朝からウルウルv-406
ハックション 花粉か?v-400

好奇心ってとっても大事なスパイスなんでしょうね
考えなかったら脳みそ使わないもん
腐っちゃうだろうな
素敵な出会いでしたね
2007/03/07(水) 07:01:51 | |真夏のサンタ #JalddpaA[ 編集]

今 このタイミングでマーガレットに出会うってのも
まっきーの人生の大きな何かなんでしょうねー。

本当に素敵な人生を送ってらっしゃる。
好奇心は旺盛なんだけど(アタイ)
その先が何にもつながってない・・・
私もこれを読んだことをきっかけに何かを変えてみようかな
2007/03/07(水) 08:58:32 | |ロビン@仕事 #qIFa0De.[ 編集]

サンタさん
ありがとうございます。そうですね。とてもいい出会いでした。きっと、もう会うこともないのでしょうが……なんて、彼女日本に遊びに来ちゃったりして……だとすてきなんですけどね。彼女ならありえるかな、と思える96歳でしたよ。

ロビ姉
好奇心は大事だよね。だいじょうぶ、ロビ姉は十分欲張りv-391なので、つねに何かやってますから、、、つながってますって。
2007/03/07(水) 09:44:15 | |まきくま #E5Upi6Fk[ 編集]

やっぱり、人との出会いって大切だわ~。。。。最近人との出会いについてよく考えてるの。そしたら、まきくまさんのレポでしょ~。
これは神様のお告げか?・・・・私も、何かを変えなきゃいけない!!
やっぱり、出会いって大切だよね。一生成長、一生勉強って感じがします^^
2007/03/07(水) 09:46:19 | |hiro #SFo5/nok[ 編集]

はじめまして。
いつも楽しく拝見させてもらってます。
まきくまさんって面白い人ですね。
タカシ君の天然ぶりとまきくまさんとのやり取りが最高です。
これからもよろしくお願いします。
2007/03/07(水) 09:50:58 | |ちさんマン #-[ 編集]

マーガレットさんとの素敵で出会いでしたね!!
まきくまさんの「長生きするのも悪くないな」の一言が心にしみます。
マーガレットもターシャ・テューダーも老いてなお魅力的なひとは常に好奇心み満ちてますね~
見習わなければ…

それと、まきさんの文章にはグイグイ引き寄せるすごい力があります。
面白くて、わかりやすくて読みやすい。
すごいよ!!まきさんv-425
2007/03/07(水) 17:29:17 | |たんべ #-[ 編集]

>あなたは日本に帰ったら何をするの?」
そんなの決まってるじゃないですかー。な・な・み・ね・縦・走♪
なんて、いい話なのにちゃかしてごめんちゃい。
まきくまさん、ダラスでマーガレットさんにパワーをもらいましたね!人と人との出会いって、本当にステキですよね。わたしもまきさんに出会えてよかったなりー(あっ、告ちゃった♪)
それと・・・
>自分に似合うものを知っている人はいくつになっても美しい。
そうなんですよねー。まず自分ってものを理解しないといけないですよね。わたしは未だに自分に似合うものがわからないかもだー(汗 んーでも、ほっかむりは似合うような気がする。。なぜか。
2007/03/07(水) 20:06:21 | |まゆ太 #Uc1kfBME[ 編集]

あ~私もとりあえずまだ、まー枯れっと(すんごい変換だ、でもイメージですぎ!)
さんの齢半分以下なのに、もう、思考が停滞しはじめてるよ~
好奇心旺盛で元気いっぱいで、見習わなくちゃだね。
2007/03/07(水) 20:25:00 | |ぜいぜい #aRYHo2sk[ 編集]

あれっ、僕のコメントがない!と思ってまた書き直したのだけど、すでにマーガレットの話になっていたのですね。
失礼しました。
96歳のお婆様、さすがに元気ですね。
まきくまさんがなんて答えたか気になります。
2007/03/07(水) 20:25:47 | |ちさんマン #-[ 編集]
マーガレットさすが!
>マーガレットは印象派のコレクター。
絵の話はなしですか?家にどんな絵があったのでしょう?今度は私が質問攻めしちゃいそうです。

>外に出るとさっきの大きな犬が飛びついてきた。
犬にも人気あるんですね??
2007/03/07(水) 20:58:10 | |hiroyuki #RSx9Hk0E[ 編集]

hiroさん
>一生成長、一生勉強って感じがします^^
なんか体育会入ってない?? (笑)
確かに出会いって大切よねー。わたしにとって人生でいちばん大切な出会いはいったいいつ、、、どこで、、、、 それが問題なのよーーーー

ちさんマンさん
お、そうでしたか、なんで前のと同じカキコなのか、このブログこわれたのかのかなあと思ってました。
>まきくまさんがなんて答えたか気になります。
えと、たいしたことじゃないんです。仕事がらみだし。でも、自分にとってはちょっと大事かなあって、、、

たんべさん
ターシャも素敵ですよね。大好きです。そういえば、彼女も自分に似合うもの知ってますよね。
私の文章ほめてくださってありがとうございます。とてもうれしいです。へんな話ですが、私も自分の文好きなんですよ。何度もよんで自分が楽しめるようになるまで書き直します。だから、うれしいです。

まゆぴょん
ほっかむり~?
せめて姉さんかぶりとか~
そうそう、ななみね、だよねー。ちょっとトレーニングはじめよっかなー、とおもう今日この頃。
その前に当番モンダイだろーがー>自分

ぜぜさん
いやいや、ぜぜさんはやわらかいし、いつも動いてるし、未来のマーガレット候補ですよん。
年取るとだいたい自分の話ばかりするようになるでしょ? マーガレットは人のことにすごく興味もって聞くの。そこが大きな違いだなあと思いました。

hiroyukiさん
どもども。先日はお会いできて光栄でした。次回はもっとゆっくり、、、ね。
絵はそのときにはなかったですね。
>今度は私が質問攻めしちゃいそうです。
そうなんですよー。なんで質問攻めにしなかったのかな、って後悔してます。なんか、押されちゃった感じ。いろいろ聞きたいですよね。
でもね、印象派の絵とはちょっと遠い風土なんですよ、テキサス。だから、あこがれるのかなあとか、思いました。
2007/03/08(木) 11:08:39 | |まきくま@お仕事 #E5Upi6Fk[ 編集]

ねえねえ、まきさん
>マーガレットさんとの素敵で出会いでしたね!!こんな短い文章でも間違ってしまうワタシっていったい…うううぅぅ
まきさんの文才がうらやましいよ~
でも、まぁいっかv-398
2007/03/08(木) 21:08:17 | |たんべぇ #-[ 編集]

たんべえさん
あのね、誤植に関してはわたくし、一家言ありますのよ。
わたくし、以前は出版社に勤めておりましたが、そのときにしでかした誤植の数々。伝説となったものもございます。
今度お会いした折に、とっておきのエピソードをお話しましょう! (ここでは到底かけません くくく)
2007/03/08(木) 23:00:59 | |まきくま@お仕事 #E5Upi6Fk[ 編集]

タカシくんがああだったので、マーガレットの話もかなりギャグな話を期待してたのだが…
まじめな話であった…

逆に、まっきー達がマーガレットにどんなことを質問して、
マーガレットがどのように答えたのかが気になります。
それは今度会ったときにでも教えてください。
2007/03/09(金) 14:56:21 | |輝子 #juZz/cEU[ 編集]

輝子さん
>逆に、まっきー達がマーガレットにどんなことを質問して、
>マーガレットがどのように答えたのかが気になります。
あのね、だからどうも失敗しちゃってあんまし聞いてないの。なんてことしちゃったんだろ。そのほうがずっと価値あったのにね。どうも、気おされちゃってさ。せめてもう少し英語うあまければなあ、なんかもうちょっと聞いてたかなあ。残念なり~
2007/03/10(土) 21:16:43 | |まきくま #.rbPzlPI[ 編集]
コメントする
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
http://makikuma.blog34.fc2.com/tb.php/145-47ce032a
トラックバック